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2日目:2018年9月23日(日)9:30~
東京国際フォーラム ガラス棟 G407会議室
参加者:76名
教育講演
「保健師だけでは健康は守れない
~今、あらためてポピュレーションアプローチ~」
講師:中板育美氏 (武蔵野大学看護学部教授・元日本看護協会理事)


ソーシャルキャピタルは、簡単に言ってしまえば、信頼とか規範とかネットワークといった3つの要素を束ねて構成されている資産だと言われています。ソーシャルキャピタルは信頼がなくては作れないし、ソーャルキャピタルができればその信頼はより深まっていくというものです。おせっかい、お互い様、お世話様が成り立つ地域づくりということになります。


〈保健師活動の特徴〉
 私たち保健師は、信頼を築いた中で情報も取り地域診断をした上で、あるべき姿とのギャップを埋めるために計画を立てていくわけですが、その時に、人々が自分の力でできることは一体なんなのだろうと、お互いさまでできることはなんだろう、それから仲間、近隣住民との関係の中でお互いにできること、それは一体なんなのだろうということを、住民と話し合いをしながら進めていって、最後に公的に配慮することを考えなければならないと思っています。要するに社会は自助、互助でできていて、そこを補う公助がある、という考え方を私たちが見失ってしまうと、上からのお節介になって地域づくりがなかなか発展しないのだろうなと思っています。
 住民のニーズに応えるために、連携という名の役割分担が、役割分担をしている気分になっているけれども、実は全然役割分担になっていないということを、特に虐待とかをやっていて感じることがあります。もう一歩足を出して、「協働」なんじゃないかと。お互いに重なり合いながらやっていく、個人、家族が福祉の制度、それから保険の仕組み、そして医療というものを重なり合いながら受けていく時代です。そこで私たちは、まる(福祉)とまる(保険)とまる(医療)を重ねて、入退院支援ですとか(入院する時は退院後のことを考えて入退院支援を一緒に考え行動していく)、その結び目の機能、コンビネーション機能を果たせるポジションにいるのではないかと思います。それと保健師は調整役にまわる位置にあるのではないかと思います。福祉、医療をどうまとめるかを考えているのは、だいたい保健師、結び目の機能をうまく発揮するのは保健師の役割ではないかと思っています。ソーシャルキャピタルの活用ということで、町内会とか自治体とか地縁型のコミュニティや、消防団とか子供会とか団体としてのコミュニティ、そういったものがバラバラではなく集合体としてお互いに協働しながら、コミュニティとして再構築していくために、保健師は黒子的な活動ができるのではないかと思っています。
 保健師が行なっている保健指導の中にはポピュレーションアプローチといった全体に対するものもありますが、個別支援もあります。ここでひとつ言いたいのは、「対象との出会い方の特徴」についてです。保健師は時に対峙関係、対立関係になることがあります。win-winの関係だけではなく、医療者として考えた時、どうしても支援が必要で私たちから声をかけるという特徴があると思います。例えば虐待、危機管理とかがそういったものですが、たとえ対立したとしても、後でちゃんと説明をして理解してもらって、しっかり関係性を保っていくということ、それを覚悟の上で私たちは対立する。保健師にはそういった個別の支援活動もあります。地域における保健師活動の指針の中では、地域ケアシステムが危機管理も含めて、ハイリスクを地域でどういう風に支えていくか、というものですし、ポピュレーションアプローチとしては個別支援からヒントを得て、地域に還元しなきゃいけないことはなにかといった視点でまちづくりを推進していくことが示されています。保健師の活動の方向性としては、ポピュレーションアプローチとハイリスク者のケアの仕組みを作っていくという両方だということです。
 そして保健師による保健活動についてですが、田中みえ子さん1)の本の中で書かれていることで、まさにと思ったのでご紹介します。「保健師は個別への関わりをソーシャルワーク的に積み重ねてきた。そして見直しのヒントを得て地域の中に根付かせていくということをしてきたのではないか」、ということです。これが今でいう地域包括ケアの構築ということなのではないかと思います。そして「地域資源や地域のブランドという価値に着目して、地域にとって馴染みのある予防活動ができてきたのではないか。その結果を残してきたというのが保健師の歴史ではないか」ということをおっしゃっていました。地域に見合った健康な町づくりをしてきたのではないかと思います。保健師はソーシャルワーク的な活動と公衆衛生的活動の2つを源流として活動してきています。公衆衛生従事者といえば公衆衛生に関わる医師、保健師がいるわけですが、医師はなかなかソーシャルワーク的な活動がしにくいです。やはり公衆衛生看護活動においては保健師はソーシャルワーク的な個別の支援と公衆衛生的なマスの支援と両方合わせた活動が特徴と思います。その時、必ず、住民と一緒に、住民が納得できるような町づくり、地域づくりというのを目指してきたのではないかと思います。


〈グレーゾーンへかかわる保健師の立ち位置〉
 また、私たちはグレーゾーンの人たちにどう関わっていくのかということが、これから大事になってくると思います。往々にしてそういった方たちは、他者の関係をそれほど積極的に拒否しないです。でも、「はい、はい」と言うが結果的には言うことを聞かない、消極的受け入れです。その場合保健師は、その方との関りを中断しても、別に住民から苦情は来ない。医療的ニーズはあるけれども、ご本人が意識できなかったり自分の問題として認識できなかったりした場合に、私たちはその人に食い下がるか、つながりを切るかは、保健師個人の判断によるところが大きいです。それでも真のニーズに気づいている保健師は、放っておけずに繋がって必要な時に支援を行えるポジションを獲得していき、その人の視野のどこかに引っかかっておく努力をします。まさにこれがグレーゾーンの方への関わり方なのではないかと思います。そういった活動があるから地域づくりも、「あぁ、あの人たちが健康になってくれるためにはどういう町がいいのかな」ということを考える時にこれらの経験を素材とし活かしてきたんじゃないかなと思います。健康を切り口にするというのは変わりないが、その対象があらわす現象というのが、とにかく“生活の中”にあって、“生活の中“にしか答えもなくって、だから私たちは医療モデル、医学的に知識で対応するが、生活場面を重視せざるを得ないという立ち位置で、医療と生活を行き来しながら、時にはほんとに生活モデルを大事にしながら関わるという立ち位置にいるのだと思っています。


〈保健師の寄り添い〉
 対象者に寄り添う保健指導が大事といわれますが、私の解釈では保健師の「寄り添う技術」というものを考えたときに、ネットワークをうまく活かし危機判断をしつつ、必要な時は危機介入もし結果的にすくい上げてその人を守る、という関係性を築くということを背負う覚悟で、私たちは寄り添うっていうことを言葉として使っているのではないかなと思っています。なので、若い保健師さんたちに「寄り添うことが大事よ」って言ったときに、危機判断をしないということではなく、危機判断をしつつ必要な支援をするということが結果的に寄り添うことで、この寄り添うことを大事にしたいと思っています。


〈地域共生社会づくりに対する提言〉
 そして問題提起ですけれども、地域共生社会のあり方の地域力強化検討会の最終報告が出ています。中間報告のとりまとめに書いてあることがほぼそのようになっているのでぜひ見ていただければと思っています。地域力強化検討会のまとめの中では「地域福祉計画を充実していきましょう。」で、その中にはいわゆる社協とかコミュニティワーカーが「地区担当制のなかでPDCAをしっかり回していきましょう。」とか、それから後半には「自治体の役割の中で保健所等も含めて地域を元気にしていく上で、地域福祉計画を立てる」ということが言われています。自治体の中で私たちは地域福祉計画にも関与していかねばならないと思っています。また、市町村における包括的な支援体制が最終報告の中でかなり具体的に出てきています。この中で保健、医療といった言葉がほんとに見当たらないのです。まさに町づくりは福祉だという感覚になっているので、是非、みなさん、コミュニティワーカーさんとも一緒になりこの最終報告を見てください。保健医療といったこともしっかりと前に打ち出していく必要があると思っています。
 地域福祉計画の方向性を見てもそうだと思うのですけれども、福祉も医療も保険も関係なく、人々が地域の中で生き生きと暮らしていく、そして暮らしていくための命、健康を私たちは守りたいし、最後まで寄り添って守り抜きたい。これが私たちの活動の中から出てきた、沸き起こってきた、先輩から引き継いだ、そして地域に出れば出るほどその思いが強くなる、それが私たちの原動力なんじゃないかと思っています。国の方向性とか、教科書とかいろんなことがいっぱい書いてありますけれども、地域に出て住民と接することで地域の力を感じながら、その住民たちを最後の最後まで守り抜きたい、そんな原動力をうまく地域の住民さんたちと一緒になりながら手を携えて、保健活動を生かしていきたいと思っています。


〈おわりに〉
一番言いたいことは、グレーゾーンに私たちは関わるのだということ。健康問題を抱えながらそれを意識できない人、これからほっといて誰も支援に入らなければグレーゾーンからレッドゾーンになるという人、そういった方たちに、健康を押し付けるのではなく、自分のこととして考えられるような地域を作り上げていく、環境から攻めていく、社会環境を変えていくというのが、まさに公衆衛生看護活動の醍醐味だろうと思います。

活動報告③
「地域共生社会に向けた取り組みと保健師活動」
講師:長谷部裕子さん(南アルプス市福祉総合相談課長)


 南アルプス市は平成15年度に近隣の町が合併してできた市で山梨県の西部に位置します。南アルプス山麓の自然豊かな地域です。私は昭和63年に人口600人の村に就職しまして保健師として15年、合併を経て市の保健師として15年活動してきました。現在の南アルプス市には25人の保健師がいて、5部署に分散配置されています。健康増進課が最も保健師の数が多く15人、介護福祉課の高齢者福祉と地域包括、国保年金課の特定健診担当、あと私がいる福祉総合相談課と保育所にいます。私と保育所の所長の2人が管理職です。
 福祉総合相談課は平成24年度に新設されました。総合相談という課を設置した自治体は山梨県の中では初めてだったかと思います。高齢者の地域包括支援センターや家庭児童相談室など子どもから高齢者の相談をワンストップで受けようというコンセプトで作られた課でした。当時新設された時に、私はリーダーとして配属されていまして、大変だったなという思いがあります。そして巡り巡って管理職として戻ってきたということです。現在の状況は、平成27年に生活困窮者自立支援法に伴い、自立相談支援機関としての業務も加わり、障害者の虐待防止センターの機能もあり、非常に多種多様な業務を行っています。平成28年度には様々な経過の中で地域包括支援センターの機能は、介護福祉課に戻したといった歴史を踏んできています。
 現在、福祉総合相談課は3つの担当に分かれていて、地域福祉担当は正職員3人ですが、地域福祉計画の策定や民生委員児童委員に関すること、日赤のような地域福祉全般に関わる業務があります。生活保護担当は、査察指導員1人とソーシャルワーカーが4人、あと臨時職員が4人います。今までは事務職のワーカーでしたが、今年初めて社会福祉士が1人配属されました。3つ目の相談支援担当は正職員6名、(うち事務2人、保健師3人、家庭相談員1人)、臨時職員等2人(社会福祉士1人、家庭相談員1人)です。それ以外に、コミュニティソーシャルワーカー業務を、社会福祉協議会へ委託していて、5人のコミュニティソーシャルワーカーが地区を担当し、活動しています。
 平成29年度の実績は相談実件数418件(新規201件)、延べ件数8,249人です。出張相談という形で、地域に相談窓口を設け、それを入り口に活動しています。
 その中でもちろんすべての課題をコミュニティソーシャルワーカーが解決するわけではなくて、キャッチした内容を市役所に繋いで頂き、チームとして一緒にやっていくという体制をとっております。

〈他職種の見る保健師像〉
 当市では現在第三次地域福祉計画をすすめています。今年、来年で2020年から始まる第四次地域福祉計画策定にちょうど手を付け始めたところということです。国の方では地域福祉計画は市町村の中での上位計画という位置づけがされていますが当市も横断的な計画ということで位置づけ、策定する予定です。その準備をしている過程で、まずは直接市民の方と接する相談支援の専門職に聞き取りを行いました。障害の相談支援センターで活動されている相談員からは、例えば障害者の働く場の問題は地域の中では非常に悩ましいということや、障害の方の親亡き後の問題、引きこもりの課題もありました。あとは先ほど連携という話が出ましたが、他機関との連携はどこからも出される課題でした。そこで語られたことで、「それぞれに役割を線引きしていると、(先ほど先生が「結び目」とおっしゃっていましたけれども)むしろ線を引こうとしているのではないか」ということ等、保健師に対して厳しい内容のものもありました。中板先生の話の中に医療モデル、生活モデルとありましたが、「保健師は医療モデルじゃないか」「保健師は繋いで終わりじゃないか、例えば、子どものサービスだと放課後デイサービスにつないで終わり、そうじゃないでしょう」と逆に福祉職から言われました。うちの福祉職は勉強もしているしスキルが高いです。お互い様ですが、厳しくやり取りする場面もあります。

〈他職種と活動する中での保健師の役割〉
 途中段階ですが今聞き取りを終えた中で全体を振り返ってみると、保健師に係る課題は、重症化したケースが多くなってきているが、事後対応になってしまっていることです。今生活保護の方は309世帯いますが、日々相談が入る中で、最近目立つのが「がんの末期」とか、「生活習慣病が重症化して脳梗塞で倒れた」等で、とにかく非常に重症化したケースです。でも急にこうなったわけではなく、8050問題は、8050から30年引いたら5020、さらに20年引いたら3000。この家族にも歴史があって、20年前はこの家はどうだったのかと。保健師は過去、今、未来とケースを見ていく力があると思っています。地域の中でその家族の歴史を見ていける職種でもあると。
 もう一つは、途切れのない支援です。当市では子どもの相談などでケースを投げてしまうのではなくて途切れのない支援に向けて取り組み始めています。その先、高齢までライフステージの中で途切れのない支援というのはどのようにしたらいいかを考えていく必要があります。健康状態の悪化で仕事できず、収入減で生活困窮というような事例がたくさんありますが、それぞれ背景を紐解いていくと様々なことがわかります。
 そこで、今やっているのは多職種でのケースの分析です。ケースカンファレンスではなくてケース分析をやっています。それは地域福祉計画の策定に、ある大学の先生に助言者として入っていただき、複合的な事例を抱えた家庭の支援者の記録を相談支援に携わる職員で読み解いて、時系列に経過を確認しました。特に、うまくいった事例から、ケースについて関わりを始めたころからの記録を読み、どのタイミングのどういった関わりが良かったのかについて、グループになって付箋を用いて出し合い、ホワイトボードに本人、家族、地域、ボランティア、支援者等の大きなくくりの中に整理する作業を行いました。何十枚も付箋が出ましたが、全員で自分が書いたことを説明しながら共有をしました。この作業により、ケース支援の背景が整理できるのですが、まさにその作業過程が地域共生社会に向けての専門職同士の共通言語を持つというか、共有できる場になると思います。
 グループワークの際に、「連携が良かった」という付箋を貼ったら、先生から「そうではなくて、誰と誰がどのタイミングで手をつないだからこの事例はうまくいったのかとか、誰と誰がこういう考え方をしてこう動いたからこの事例はうまい方向に行ったのだということを、もっともっと細かく書いて言語化するのです。それをみんなの目で見て共通項として可視化し、また、こうすることで他の人にも伝えられるし、その先の市民にも伝えられるのです。『こんなタイミングでこういう取り組みがあったからうまくいったよ』と市民にも伝えることを見据えながら言語化・可視化をしていくのです。」ということを何回も何回も言われました。確かにそうだと思います。




 その先生が言われたことのひとつが「事例を丁寧に紐解くこと」ですが、もう一つは「地区診断」です。地区診断について福祉の教育では保健師ほどはされていないという印象はあります。保健師の役割はこの地区診断を発揮することだと思います。その先生がある地方の町に入った時に感じたこととして、「地域で動いている保健師さんたちの感性というか、統計もそうなのですけれども、保健師さんはそこで暮らしている人たちの声を聴いて生活ぶりを見ているので、住民から保健師さんというキーワードがすごくよく出てくるということを聞いて、やはり地域のことを知っているのは保健師さんだと。福祉職も保健師さんに聞いていくのが一番じゃないかと僕は思いました」と。このように思ってくださる方もいらっしゃるんだと思いました。
 今、こんな経過を踏んでいるのですが、もう一つお話ししたいこととして「住民主体」があります。住民主体っていうときの住民って誰を指しているのか、という話がグループの中に出たときに、保健師は、やはりグレーゾーンの方もひっくるめて全員、市民全員と考えていると思いました。保健師は、住民全員の中に今起こっていることを構造化し、背景を読み解き、事例を見る目を養い、可視化することが大事であり役割だと思います。


〈後輩の育成〉
 このことは後輩の保健師たちにも伝えるべきだと思います。一事例をどうやって彼女たちに読み解いて伝えるかっていうのは、私たちも言語化・可視化する先輩としてやらなくてはいけないことと思います。それとあわせて国の動き、社会情勢、先ほどから出ている地域共生社会の図があったかと思いますが、私たち日々地域福祉計画を作る中で、この図を毎日見ていますが、これを見るたびに、「これからの保健師ってどこに立って、どっちの方向をみて活動するのかな」と思います。国が地域共生社会を推し進めている時に、保健師は誰も入っていないという状況の中で作られていると中板先生がおっしゃったことは、私もすごく感じています。この中に医療・保健という視点がほぼ入っていないのは非常にショックですけれども、ここにお金が流れていくという現実があるので、国の動きや情勢を捉えながら自治体であれば地域福祉計画の中にどれだけ保健師が関与できるのか、非常にアンテナを高くしていかなければいけないと思います。
 地域の課題、分析を発信するというところも当然出てくると思いますが、あと自分たちの今の活動、情勢を捉えながら、今やっている事業がほんとにどうなのか、これからどうなのかというところを、もうちょっと客観的にみる必要があると思います。
 昨年私は健康増進課にいたのですが、その前は国保、その前は福祉にいて、久しぶりに福祉に戻ってきました。健康増進課で驚いたことは、乳児健診の問診に入った時に、あまりにも問診項目が多いことでした。「これでは保健師はお母さんの顔を見ないよね」と。みんな下を見てチェックして、確かにしなければならないこともありますが、目の前にいるお母さんたちとどう向き合うかということと解離していると思いました。私たちが今絶対手放してはいけないものは、各自治体によって違うと思いますし、法律もあると思うのですが、それは自分たちの地域の中で考えていくべきものと思います。変えていくもの、守っていくものって何だろうと最近考えます。


〈保健師が大切にしたいこと〉
 あとは多職種チームとして保健師活動を見える化することはお話ししたところですし、共通言語を持つということも非常に必要で、あとツールの活用です。例えば先ほど言った事例を紐解いていくにあたっても、非常にたくさんのいろんな分野のアセスメントツールができています。そういったものも一緒に考えながら多職種の中で、先ほどもお伝えした言語化・可視化というところができるといいなと思います。
 最後に、後輩を育てるための保健師の未来ですが、私は今福祉の現場にいて福祉職の皆さんのパワーが非常にすごいと思います。「地域を担っていくぞ」という想いにあふれています。では保健師は何をやっていこうかです。先輩方が築いてきてくださった活動はこれから駅伝のタスキのように後輩たちにつないでいくために、やはり現任教育がすごく大事かなと思っています。
 昔みたいに「はい、行ってこい!全戸訪問!」という時代ではなくなってきているとはいえ、大事な市民の暮らしを見ていく経験が、若い保健師たち非常に少なくなっていると思います。地域に出かけ地域を住民の生活を知ることを、先輩たちがうまく仕掛けていかなくてはならないと思います。その先に、保健師たちが地域の中で、地域共生社会の図の輪の中にちゃんと位置を据えられる活動ができたらいいと思います。




2日目グループワーク(9月23日)


【質問1】:長谷部さんにお伺いしたいことが一点あります。中板先生の資料、地域力強化検討会中間とりまとめの中に、中板さんも長谷部さんの方からも保健や医療の視点がないという風なお話がありましたけれども、いれるとすればどこに入っていくべきであると考えられているのかお聞きしたいです。
【長谷部】この中で保健師をどこに組み込めるか、どこに位置づけられるかは、たくさんあると思っています。特に「地域共生社会の実現に向けた地域福祉の推進について」という平成29年12月12日付の厚労省のガイドラインの中に「市町村行政内部の計画策定体制の中に、社会福祉士や保健師の地域活動の展開方法や技術に関わる専門職が中核的な役割を担うことがのぞまれる」と「保健師」という言葉がはっきりと書かれています。




ですので、地域福祉計画といわれていますが、福祉分野が作るとか福祉に保健師がいないからとかではなく、やはりガイドラインに書かれているのだから私らも入るということを共有していくこと、福祉の中に保健師が入っていることは非常に大きいことと個人的に思います。この中の「我が事、丸ごと」についても、保健師自身いろんな地域の組織活動、住民の方との活動、協働活動の中でできると思います。私たちはこれまでも、それを求めてきてやっているではないですか、地域の住民の皆さんが自分事として地域を受け止めて自分たちで解決していく仕掛けをずっと先輩たちもしてきているはずです。やはりそこに気づいてやっていく事からだと思います。また、市町村における総合相談体制も、福祉分野だけではなく、保健師も加わった総合相談体制が必要と思います。例えば、がんの患者さんで地域の中に暮らされている方も大勢いて、がんを治療しながら、働き盛りで子育てもしながら介護もしながら働いている方たちもいます。ガイドラインにはいろいろなことが書いてありますので是非読み解いていただきながら、自分たちの自治体なりのもので、つなげて頂けるといいかなと思っています。

【質問2】:長谷部さんへの質問です。山梨県の方がうちのグループに何人かいらっしゃいまして、総合相談をやっているというお話を聞いていました。みんなそこに相談がいっちゃって大変なんじゃないか、というような印象で見ていたようですが、今現在は他部署とどういう役割分担をして運営しているのですか。要は大変なところと、関係している課の連携の部分の調整の話を具体的に教えて頂けたらと思います。
【長谷部】連携の分、確かに、私が行った平成24年4月は「全部ここがワンストップでやります」というコンセプトで始めましたが相談が集中してきてしまい、一か月でスタッフが疲弊感一杯になってしまいました。今やっているのは、確かに間口としては全てですが、相談の裏には高齢、障がい者、引きこもり、生活困窮や、さらに母子のヘルスの部分もあり、他部門の担当にうまくつなげながらチームとしてケース会議をし、ケースによりますけれども横断的なチームとしてやっています。
総合相談課はスーパーマンの集まりではないので、いろんな手段や地域資源を用います。いかにそこに繋げるかが、うちのスタッフの技術の一つでもあり、住民の暮らしを支えていくというスタイルをとれていけたらいいと思っています。



グループワークの情報交換

《A》福祉の方もそうかと思いますが、保健師は本人さんや訴えのある方の話はもちろん聴きながら、時には第一相談者の意思に反しながらも周りの方に連絡したり、状況を聞いたりしながら柔軟にケースに対応していくのが、保健師の専門性のひとつではないのかというのが出ました。あと、同じ保健師だからといって同じベクトルを向けるとは限らないので、そのベクトルあわせの話し合いも大事だなという話が出ました。

《B》いろいろな福祉職がある中での保健師らしさというのは、保健師の役割を伝えたり、会議を開いたりが得意なところなので、それらをやっていくというところと、中板先生の話の中にもあったように、「危機判断しつつ寄り添う」というのはやはり保健師の大きな役割という話が出ています。保健師の弱いところ、先を見通す力、戦略が弱いところは、多職種とうまく連携しながらいければいいのかなという話がでました。

《C》庁内連携や地域のいろいろな方たちとの連携、協働、そういったことが求められている中で、やはり保健師の役割をしっかりと全うしていくためには、自分の立ち位置をもう少し上げていかなくてはならないという意見が出ました。保健師としてどうあるべきだということを言っていく時に、発言権がないというのは非常にまずいので、役職もしっかりとることも戦略的にしていかないといけないんじゃないかという意見も出ていました。
あと先輩の行動を見て成長してきた、その影響は大きいので、段階的に成長していくのはとても重要だと。今回話に出ていた、20年目くらいの保健師さんたちにケースを切っていく傾向があるのではないか、新人さんたちが地域の中でいろんな情報を得てそれを先輩に伝えても、20年目くらいがそこを止めてしまう等、と中堅後半くらいの保健師が実務的にも壁になってしまっているという話も出ました。やはり段階的に育っていく、先輩の背中を見ながら育っていく仕組みも必要です。そういったことも含めて役職をしっかりとっていかなくてはならないという意見も出ています。




《コーディネーター》ありがとうございました。今3グループの方々から現任教育の大切さ、保健師の立ち位置を上げていくことも大事なのではないかということもご意見いただきました。それから、同じ保健師だけれど同じベクトルとは限らないということで、やはり私たちがしっかり課題意識をもってどの方向に向かうかということも大事ではないかと思います。
まとめにはなりませんけど、きっと皆さん、この2日間を踏まえて是非職場に持ち帰っていただいて是非次の保健師活動に活用していただければと思います。では、これでグループワークを終わらせていただきます。

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