平成27年度 第1回勉強会の報告:乳幼児健診項目
日 時:平成27年8月22日(土) 午後1時から4時半
会 場:日本公衆衛生協会会議室(1階)
テーマ:
昨今の母子保健福祉対策(児童虐待予防をめぐる)の動向と保健師活動
1. 母子保健対策の動向:平野かよ子(本会会長)
2. 情報提供:
・これまで虐待予防を念頭においた子育て支援・用いているツール例等
・東京都、山梨県、新宿区の取り組みから
3. グループ討議:
・虐待予防を念頭においた子育て支援の取り組み
・保健師が行っている"子育て支援の成果"をどのように示すか
昨今の母子保健福祉対策の潮流として、例えば、厚生労働省から乳幼児健診において、保護者に対して一律に直接的な表現で虐待の有無を問う設問項目の追加が指示されるなど、保健師が親と信頼関係を築き子育て支援等を行ってきたことが評価されていないと思われる法・制度の改正や事務連絡があり、これらの母子保健福祉の方向性を大変残念に思います。これは、一つには保健師が行っている親支援のプロセスを見える化させてない結果であり、子育て中の親が安心、納得、満足を得ていることや子育て行動を変化させている成果を示すことが不十分であったとも思います。
そこで、第1回勉強会は、昨今の母子保健対策の動向を理解し、保健師が母子保健対策の中で幅広く子育て支援を行い、単に発達障がいや虐待が疑われることの早期発見の役割だけを担っているのではない保健師活動について情報交換を行い、保健師活動の成果の見える化を一歩でも進めたいと思います。
【1. 母子保健対策の動向】
母子保健対策として「健やか親子21(第2次)」の検討会報告が平成26年3月に取りまとめられ、「健やか親子21(第2次)の指標並びに目標の決定並びに今後の調査方法について」の事務連絡が同年11月12日付で市町村に届き、乳幼児健康診査において虐待についての問診を必須とするとされました。虐待予防は母子保健対策の重要な課題であり、その効果を示す指標に基づき、その実態を把握し正確なデータとして集約することは大切です。しかし、示された問診項目は、日々乳幼児に接する経験を持つ保健師には、虐待を行っているあるいは虐待が疑われる育児をしている親に、健診の初めに尋ねることで、親は答えることに躊躇し、実際に虐待をしている親はその認識がないことが特徴であることから、実態を調査する項目としては意味をなさないし、不適切と判断されるものであり、また、逆にこれまで慎重に丁寧に総合的に判断しながら親の本音を聴き、支援する用意があることを伝えてきていた健康診査そのものをないがしろにされることを危惧します。具体的には「感情的に叩いた」「乳幼児だけを家に残して外出した」「長時間食事を与えなかった」「感情的な言葉で怒鳴った」「子どもの口をふさいだ」「子どもを激しく揺さぶった」の問診項目です。
一方で乳幼児健康診査をどのように位置づけ、どのような意味を持たせていたかを保健師が見せてこなかったことの現れではないかと思います。それにしても実践している保健師の意見を反映したものとは思われないし、この問診がなされることで生じてくる不適切な親の反応を予想すると、このままにしておいて決して良いものではないと思います。今日は、参加者のみなさんはどのように受け止めた、どのように行動されているのか、より適切の把握、予防効果を示すためには、保健師として何ができるか、今後何をすべきなのかについて、話し合い、知恵を出し合いたいです。
【2. 情報提供】
● 1)東京都(藤原千秋氏)
東京都では平成11~16年にかけて南多摩保健所で「子どもの虐待防止スクリーニングシステム(南多摩方式)」を開発し、3・4か月健診時に活用して子育て困難家庭や虐待の可能性がある親子を早期発見し、適切な支援につなげるために活用した。親が直接記入する「子育てアンケート」も作成したが、直接に虐待の行為を尋ねるのではなく、一次項目は入念に検討し、保健師は『子育てを支援していきたい』とのメッセージを入れ、虐待か否かではなく、予備軍が虐待に移行しない地域づくり、社会づくりに発展させるためのアンケートとした。保健師としては、ただ発見し実態の把握で終わるのではなく、これらの項目を手掛かりとして、親との信頼関係をつくり個別的な支援へつなげ、さたに地域づくりにつながり、予防と地域づくりのための項目であって初めて実効性のある調査項目であることを伝えたい。
● 2)山梨県(斉藤由美子氏)
県としては、保留することが適当と判断したが、県下には事務連絡を受け、健診の通知と一緒に送付するために大量に印刷し、発送し活用を始めた自治体もある。そこでは素直な親が虐待に関する質問とは思わすに、経験ありと記入し、「車内であまり泣くので、一度口をふさいだ」であったり、要保護児童対策地地域協議会に上がるケースの親は記入していなかったなどの報告が上がってきている。
● 3)新宿区の取り組み(松浦美紀氏)
新宿区では3.4か月健診、1歳6か月健診時にエディンバラ産後うつスケールを用いて親のメンタル面に焦点を当て、虐待防止の取り組みを行っている。3歳児検診時はスクリーニングを行っていないことが、今後の課題である。今回の事務連絡では質問項目の修正は認めないということである。調査は問診とは別に実施することを検討してほしいと思う。
【3. グループ討議(通知のけ止め、保健師活動のみせる化)】
・県下の半数の市町村はすでに健診時に調査を行っている
・これらの項目で虐待が把握できるわけではない
・本音が言えない健診になる
・通知された問診項目は、2次、3次の項目内容、健診と相談、家庭訪問を組み合わせ支援できるもの
・若い保健師は問診通りに聞くので、問診時にどのように声かけをするかの研修を検討している
・予防の効果は親子の生活の変化をみてアセスメントできるので、アセスメント内容を見える化するしかないか
・妊娠届からハイリスクを把握し支援していることをもっと見せる
・事例で見せる
・問診項目では実態の把握になっていないことをフィードバックする
【全体での振り返り】
保健師が大切にしていることは、親に会えることである。継続したかかわりで子育て支援の効果を確認でききる。保健師の保健活動は、虐待が疑われるが確定できないグレーな時期にかかわり、虐待に移行しないよう予防活動を行うことが保健の本務である。健診の未受診者フォローを個別に行い、関係者との連携のネットワーク形成を充実させることが重要と思う。保健師活動の効果を数で示す意味は何なのか。現在1歳6か月健診で行った親支援は地域保健活動報告に計上されない。せめて政府統計の項目とすることを提言した。
保健師活動の本質を捉えた立ち位置で、保健師活動の効果・効用を示す質的な指標の開発を行っていこう。
*本会は平成27年6月2日に母子保健課長宛の「虐待関連の必須問診項目及び実施等に関する要望」に連名で参加いたしました。
【第1回勉強会 アンケート結果(n=30)】
【1. 母子保健福祉対策(児童虐待予防をめぐる)の"乳幼児健診の問診項目"について、あなたの職場では、どのように取り組みましたか。】
・国の指示ということで割り切ってやり始めた。最初は戸惑った。今は、どう、この結果を受け止めるか報告していくか考えるため4ヵ月間すぎ、検証をするところである。
・市町の状況を把握し、県の動きを確認している。
・実施を想定してシステム関係の部署を調整中だが、行う場合の課題と対応の整理をしたいと思う。また、実施しないことも選択の1つとしてきちんと理由づけをしたい。
・導入も含めて検討中。今回のこの勉強会での情報を持ち帰り、再度検討していきたい。
・医師会と調整中。
・以前から独自の子育て質問票というアンケートを基に行い、変えていない。
・通知を受けて切れ目のない支援について検討する検討会で検討中。
・管内の市町の状況を把握した。県としても県域市町村の取り組み状況を把握したところ。
・国の通知を受け、「厚労省の依頼により~」とつけて項目を入れて実施している。
・県に確認したところ、一字一句変えずに4/1より"ヤレ"と言われた。追加項目として「27年度より厚生労働省の依頼により設問を増やします。」とあえて一行入れた上で問診に入れている。
・項目を決めることより、その項目からどう感じ取り、どう支援するかを大切に考えている。
・まだ途中だが、問題意識を共有しているところ。
・県庁、管内市と調整・打合せを行った。今は、県庁に下駄を預けた状態。
・作成はしたがストップし、動向を見ている。
・保健師のスキルアップを図る必要があると考えている。