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日本保健師活動研究会 第17回総会・研究集会報告1日目

今年度の総会・研究集会は2日に渡り開催しました。研究集会の概要を報告します。

1日目:2018年9月22日(土)13:30~
東京都健康プラザ ハイジア 研修室


基調講演
「昨今の地域づくり型保健活動の動向と保健師への期待」
 講師:近藤尚己先生(東京大学大学院医学系研究科准教授)


〈健康格差〉
 「健康格差の縮小」を図るためには「地域づくり」のポピュレーションアプローチが必要です。ポピュレーションアプローチは大きく分けて2つあります。一つは『社会環境の質を整えること』、もうひとつはいわゆる「知識の啓発」です。 健康日本21の後半は主にメタボリック症候群をテーマに、後者を強化しようと推奨され、活動が進みました。知識の普及啓発は大切ですが、注意点もあります。健康意識が高い人ほどメッセージが届きやすいため、健康格差を拡大させる可能性があるという点です。


〈社会環境の改善〉
 そのため、リスクが高くて健康に前向きになれない人に訴えかけられるような戦略も合わせて実施していくとよいでしょう。つまり、「そこに住むだけで健康になれる」ような、社会環境の改善型のポピュレーションアプローチです。 〈健康格差をどう改善するか〉
 最終的には健康格差を引き起こしている社会リスク自体をなくすことが理想です。例えば所得再分配の強化や社会保障の充実です。働き方改革も大切でしょう。社会的に不利な立場にいる人に的を絞った対策も必要です。たとえば生活保護受給者の方への対応や貧困世帯の子どもたちへの健康支援等が進められています。ただこのような選別的な戦略で気をつけないといけないのが、対象者のレッテル付けです。ですので子ども食堂は、ほとんどの場合誰でも来ていい仕組みになっており、お金のない子どもだけを集めていません。


〈行動科学の応用〉
 社会保障制度を充実させて所得を再分配することは重要ですが、それだけで解決はしない。人は、常に理性を働かせて望ましい形で金銭や資源を使えるわけではありません。より良い選択をしてもらえるように促すために、行動科学やマーケティングの応用も必要です。ねらいとする健康行動を強制するのではなく、そっと後押しする、という考え方が注目されています。デフォルトオプションを健康的なものにする、結果をすぐにフィードバックする、選択肢を整理して見せるなど、応用できそうな考え方が行動科学にはたくさんあります。


〈マーケティングの応用〉
私たちはそろそろ「健康至上主義」から脱却しなくてはならないと思います。健康は手段であるが目的ではありません。健康という目的を達成するためでも、健康以外の、相手の興味関心に訴えるアプローチが役立つことでしょう。企業は消費者に必要なこと(needs)ではなく、ほしいもの(wants)に訴えかけます。そうしないと売れないからです。同じように、健康サービスを届ける場合にも、対象となる住民の利益・関心、つまりwantsを見つけ、訴えかける必要があります。サービスを届けるべきターゲットを絞り、そのwantsを探り、そこに訴えかけるメッセージを届けていく。こういったマーケティングの考え方を公衆衛生活動にももっと取り入れたいものです。


〈これからの保健活動〉
 保健活動、これからは町づくりが主役だと思います。行動科学を応用し、環境デザインをしていきませんか。そこでの保健師の役割は、言わば、「コミュニティデザイナー」です。いろんな役割を「健康づくり」を始点にしてつなげる仕掛け人になることです。ヒントは世の中にたくさんあります。一見したたかな戦略や仕掛けからも学んでください。そこに人を動かすヒントが隠されています。そういった人達と手をつなぐことも必要だと思います。WIN-WINの関係を作っていくことが大切でしょう。また、困っている人たちほど、声を上げにくいという状況があります。私たち保健活動の専門家は、健康になりたくてもそうできない、誰にもその状況を伝えられない方々と出会う機会が多いですね。私たちは、彼らの声を社会に届けるアドボケイトadvocateでありたいと思います。



活動報告①
「ロジックツリーによる課題分析からの保健活動」
講師:越林いづみ氏 (福井県高浜町保健福祉課課長補佐)


 高浜町では10年前から健康づくりに力をいれており、平成20年度に健康増進計画を作成しました。第一次高浜健康増進計画、たかはま健康チャレンジプランでは、町の人達に高浜の健康状態を知ってもらい、まずは健康に関心のある住民がつながり、健康に良い取り組みを普段の生活に取り入れて頂き、身近な人に広めてもらうという行政と住民との協働での健康づくりに5年間をかけました。意識しなくても住んでいるだけで健康になれる町を目標にして今展開しています。10年間の住民と行政とが協働で楽しく取り組む町づくりの健康づくりを通して、「高浜町は健康づくりを取り組みやすい町だと思う」と回答する住民が70%を超えました。たかはま健康チャレンジプランの中で、「たかはま健康づくり10か条」を行動目標として掲げていますが、その中でシンボル的な第一条「野菜から先に食べている人の割合」も70%を超えました。アウトカムを明確にしてPDCAサイクルを回していくことで目標達成に近づくということを学びました。

 また、高浜では、特定健診もがん検診も、自分自身が対象となる健診は主体的に受けてもらうことを目標に、たかはま健康チャレンジプランの取組と並行して、受診率向上の取り組みにソーシャルマーケティングの技法を取り入れながら進めてきました。その取り組みを通し、対象者の特性と自分たちの強みと弱みがわかれば、介入の道筋が見えてくるということを経験しました。

 保健師に課せられる業務が年々増加し、目の前の今やらなくてはならない業務に集中してしまって、川の上流(健康増進や疾病予防)まで視野が広がらなくなってしまいます。これまでの二つの取組から、ポピュレーションアプローチを進めていくための高浜で大切にしていることを4つのルールにまとめました。1つ目は質的、量的データを集め、その課題がなぜ起こっているのかをみる、つまり「わかる」作業をすること。2つ目は取り組むべき課題が明確になったら、地域の住民の現実をどのような状態に導きたいのか明確にする。3つ目は解決の道筋を整理してから取り組むこと。4つ目はPDCAサイクルを回し続けて進めていくことです。これらはポピュレーションアプローチを実践しながら悩みながら、立ち止まりながらやってきたことでできたルールです。そしてこの取り組みを実行するために、現在はロジックツリーとPDCAサイクルシートの2つのツールを業務の中で取り入れています。本日はこのルールで準備を進め、今年4月に開設した「子育て世代包括支援センター」における取組を報告させていただきます。


〈高浜町の概要〉
 高浜町は福井県の西の端に位置する人口10,000人の町です。出生数は現在では年間70~90人くらいです。保健福祉センターには、保健福祉課と社会福祉協議会が入っています。保健、福祉、介護、子育て支援、医療すべての機能が集約されていて、保健福祉課は保健グループと福祉グループに分かれて仕事をしています。
 私たちは保健グループにいます。保健グループは保健センター、地域医療推進室、国保直進の診療所、今年4月に開設した子育て世代包括支援センターという構成です。子育て世代包括支援センター設置までの経緯は、児童虐待防止ネットワークの設置が市町村に求められた平成17年度には子育て支援を推進する体制が整っておらず、保育所の事務担当課のあった本庁と母子保健の業務を担っていた保健センターと教育委員会が連携してネットワークが設置されました。平成19年度に母子保健と保育所事務がひとつの課になり、子育て支援のサービスを整えて行くこととなりました。
 また、健康づくりの方では、「こどもの健康づくり部会」がH26年度から始まり、保育所、小学校とも連携して子どもたちの健康づくりに取り組んでいます。このように、母子保健と子育て支援が一体化し、多職種が協力して様々な機関と連携して切れ目のない支援体制を10年間かけて構築してきました。毎日多くの母子が相談に訪れ、乳幼児の健診の受診率も高い状況で、窓口は住民に浸透し、その結果次々と相談が寄せられ、また深刻なケースが多機関から連絡され、その数は増加する一方で、対応や支援に追われる状況が続き、年々深刻化しています。
 母子保健、子育て支援でいくつもの取り組みをしているにも関わらず改善しない状況に悶々としていた中で出てきたのが子育て世代包括支援センターの設置という課題でした。


〈子育て世代包括支援センターの設置〉
 平成28年度と29年度の2年間をかけて、先ほどの4つのルールを基に保健師が中心になり子育て世代包括支援センターの開所に向けての準備を進めました。まず、今の子育ての何が課題なのか、母子保健、子育て支援に関わっている保健師、看護師、保育士、家庭相談員、助産師がそれぞれの感じている実情や印象を話し合いました。しかし、困っているお母さんの実情は見えてきましたが、それぞれが母子に関わる時期や場面が違うため、母子の全体の状況が見えてきませんでした。そこで過去9年分の母子カルテをすべてコード化して分析し、育児の負担感や不安、パートナーへの満足感などの親の状況、9年間で妊娠年齢や家族構成がどのように変わってきているのか、不安を持つ人は増えているのかなどを分析しました。平成29年度には未就園児のいる子育て家庭にアンケートを行い、町のサービスの理解度・満足度、悩みの解決手段、地域とのつながりを把握しました。このように質的量的データを揃えたことで、全体像が見えてきました。話し合いの中で私たちが目指していることは「親が子育てにたくさん幸せを感じられる町」であるのに、現実は幸せを感じられない親が増えていること、これが解決すべき課題であり、目標を一緒にすることができました。これらが「知る」作業の中ででてきたことです。
 次の作業は、この課題をロジックツリーで分析しました。ロジックツリーでは、原因をもれなく整理していき、発生している問題の原因を掘り下げていきます。この方法で、1つめの作業で集めたデータや情報を分けていく作業を行いました。幸せな子育てができていない原因として「妊娠期に親になる準備が整わない」「出産から産後4か月の間、子育てのスタートで幸せを感じられない」「乳幼児期につながりや充実感を持った子育てができていない」の3つを直接原因と整理しました。
 このように整理することで、産後の「お母さんの心と体」「父親への気持ちや二人の関係性」「子育てを取り巻く社会の課題」等様々な要因があること、そしてそれらが関連して起こっていることがわかり、問題の全体像が見えてきました。これらの問題の中でも「母親の心身の回復が遅れがち」ということに着目しました。産後の回復が遅れ、5か月以降の子育てにも非常に大きく影響が出ていることが明らかになりました。産後のサポートのない家庭がここ数年非常に増加しています。しかし町内には産婦人科も助産院もなく産後ケアを提供できる専門の機関は車で一時間以上かかる遠方のみです。しかし、お母さんの不調の原因はいくつもの要因が重なって起きているので、その要因の一つひとつを解決することによって、専門の機関がなくても早い段階で多くの母親の不調を改善・予防していけるのではないかという発想につながりました。担当保健師は、町内にある民宿を活用し産後デイケアを立ち上げました。いくつかの民宿を借りて、町の助産師や保健師、保育士が出向いてデイケアを行うものです。産後4か月ごろまで利用でき、町からは4回分の補助チケットを発行しています。利用料は、昼食代込みで自己負担1,500円です。お母さんは自分の時間を持て気分転換ができ、他のお母さんやスタッフとの交流も生まれ、張り詰めた気持ちが緩んで、自分の体を休めることの大切さを実感できるものとなっています。この産後デイケアはさらに地域に子育てをサポートする場や人ができ、子育てを支える地域づくりにつながるという効果も期待できます。


〈ロジックツリーとPDCAサイクルを回すことの効用〉
 ロジックツリーをとりいれるメリットは、問題の全体像を把握する、ひとつの問題に対して多くの解決策を探ることができ、そしてどのような道筋でその問題を解決するのかを導き出すことができ、解決策を全体で共有することができることです。各事業がどの要因の解決策として実施するのか、一つの事業で一つの要因が解決され、別の事業で他の要因が解決されることで、大きな課題が解決されていきます。ロジックツリーを使って考えた対策を事業化し、充実を図るためにはPDCAサイクルを回すことが大切です。しかし業務に追われると評価指標まで業務開始時に決めて組み込んでいても、改善へ向けた作業が滞ってしまいがちです。高浜では、PDCAサイクルシートをオリジナルで作成し、このシートに書き込むことにより評価(C)から改善策を考え(A)、次年度の計画(P)に反映させていけるようにしています。このようなツールがあることで、PDCAサイクルで事業を回すことが実現できます。
 平成29年度は建物の改修とロゴ作成を行いました。建物改修のポイントは「対話」「成長」「こころ」とし、建築家と関係者で模型を見ながら何度もワークショップを行い詳細を決めていきました。この過程を通して拠点のイメージと運用がどんどん具体化し、スタッフ間で共有もできました。以前は玩具とソファーだけが置いてあったホールが、大きな遊具のような小さな路地のような建物になり、程よく区切られた空間が親子のそして保護者同士の対話を生み、あえて作った段差は子どもの成長を促しています。木の香りが流れる空間で、最近はお父さんの利用も非常に増えてきました。


〈おわりに〉
 高浜町子育て世代包括支援センターの名称は「kurumu」です。すべての子どもがあたたかい愛情のもとで健やかに育つように、そして子育て中の家族をやさしくくるむ社会であるように。そしてそこでくるまれた人が、次は誰かをくるむ人になる、そんなやさしい循環が息づく町になってほしいと思っています。保健福祉課の子育て支援が、幸せな子育てができる町を目指すことで、様々な立場の人が一緒に考え取り組み、つながりづくりとなりました。そしてそれぞれの立場からの発信も始まっています。多くの職種が健康づくりや子育てや地域づくりに参画する時代に来たからこそ、保健師が町全体をみて課題を見出し、様々な職種と地域をつないでいき、その取り組みにPDCAサイクルを回しアウトカムへと導いていく役割を担い地域を動かしていく、これらのことが保健師に課せられているのだということをあらためて感じました。



活動報告②
「他機関・多職種で取り組む『食育支援プログラム』~生活困窮家庭の子どもへの支援~」
講師:藤田恭子氏(埼玉県上尾市健康福祉部生活支援課管理担当)


 上尾市は平成24年度から生活保護の担当課に常勤保健師が配置され、私は27年度から異動で担当となりました。現在は、私ともう一人常勤の保健師、パートの看護師の3人で担当しています。生活保護の保健師は、医療費を抑制することが目的になりますが、なかなか数値(金額)を下げるのは難しいのが現状です。糖尿病、生活習慣病の改善、重症化予防を中心に保健指導しています。また、未受診者が非常に多くその数を減らすことを、生活保護の窓口に来ると保健師さんがいるから血圧を測ってもらおうかな、ちょっと話していこうかな、という関係が作れるような、寄り添い型の支援を目標に取り組んでいます。


〈上尾市の概況〉
 上尾市は埼玉県の南東部に位置しております。人口は22万5千人で高齢化率は26.7%、埼玉県は比較的若い人が多い県ですが、急激に高齢化が進むことがわかっているので、今後の課題は医療や介護の対策が非常に重要だと思っています。上尾市の生活保護の現状は、全国的な傾向と同じで、保護率は現在9.59パーミル(千分率)ですが、やはり年々上がっている状況です。


〈子どもへの食生活改善プログラム〉
 今日は子どもの食育支援プログラムを中心にお話ししたいと思います。
 まず生活保護では、各福祉事務所が受給者を自立させるために様々な工夫を取り入れながら自立支援プログラムを策定しています。保健師が関わっている自立支援プログラムは5つあって、①健康増進プログラム(生保受給者の人の一般健康診査の受診率を上げるもの)や、②健康管理支援(先ほど近藤先生のお話にもありましたが平成33年の1月から生保受給者の健康度を上げる健康管理支援は義務化になるので、そちらのデータ分析の準備もやっている状況です)、③後発医薬品の使用促進プログラム、④食生活改善プログラム(これは調理実習をメインにした大人バージョンのプログラム)、そして本日お話しする⑤子どもの食育支援プログラムです。私が思っていたよりも「子どもたちの食環境は悪いな」というのが最初に感じたことでした。子どもたちの様子が見えてきますと、親御さんは仕事が忙しかったり病気で働けない方が多く、手料理を作ってもらう経験が非常に少ないと感じます。安い食品というのは、簡単に食べられるけれどあまり体によくないものが多いです。子どもたちは家庭でそういうものを食べていて、「給食が唯一、バランスが良い手作りの食事」という家庭も多かったように思います。子どもは家庭で食事を作ってもらった経験が少ないと、将来自分でも作ることは難しいと思います。作れるところまでサポートできるかは微妙ですが、「食事づくりって楽しい」という経験から、作ったものを兄弟や両親に食べてもらって喜んでもらい、さらに調理が楽しくなる動機づけや、きっかけづくりになるよう、平成27年の8月から開催しています。対象者は学習支援事業を利用している子供たちにターゲットを絞りました。なぜかとうと、この学習支援事業というのは生活保護の子どもたちの無料の塾なのですが、親御さんがその塾に通わせるということは、多少なりとも子供の自立について関心がある家庭が多いからです。

 まず、この学習支援事業を委託しているNPO法人にこの話を持っていきました。この時、年度の途中で予算がなかったので、上尾市の社会福祉基金が利用できるように申請手続きをしてもらって予算を確保しました。また、保健センターの栄養士(県立高校の献血事業にお邪魔をして健康教育をやっていて)から、男子高校生は部活をやめてお菓子やジュースなどで肥満になる子が多いとか、女子はモデルのように痩せたくて食事を抜いてやせるといった無理なダイエットをしている子が多いといった話を聞いていたので、この辺りの課題の解決ということも踏まえて事業を計画していきました。予算もできて対象者も決まったのですが、もう少し支援者も欲しいということで、特別養護老人ホームの担当相談員さんに、「こんなことがやりたいんだけど、なにか手伝ってもらえないか」と相談すると快諾を頂き、一緒に事業を回し子どもたちの準備も一緒に手伝ってもらって開始の運びになりました。後々保健センターの栄養士が産休に入り、この調理実習を切り盛りしていく栄養士がいなくなった時にも、特別養護老人ホームの栄養士さんから「喜んで協力します」という声を頂き、現在もそのままホームの栄養士さんに協力をして頂いています。


〈当日の食生活改善プログラムの流れ〉
 最初にオリエンテーションをし、事業目的を必ず説明をしています。何品か作る料理の中で、「一品でもいいから必ずおうちで家族に作ってね」と話します。家族は料理を作ったら喜んでくれるかな?などといった話をしながら動機づけを行います。健康教育を毎回入れているのですが、私がミニ健康教育を15分位して、栄養士さんが栄養バランスモデルのお弁当箱を持ってきて「半分がご飯だよ」などバランスの話をします。今年は市の予算に切り替えたので、外部講師の予算をとりました。この夏は、大塚ウエルネスベンディングさん(ポカリスエットの会社)に熱中症予防の話をしてもらいました。その後、子どもたちに一連の料理の工程の流れを見せながら説明をします。そして、グループごとに分かれて調理実習をしてみんなで食べて片付け、その後にアンケートを書いてもらって終わりです。子どもたちは学習支援事業を利用している子どもたちですので、午後も会議室をとっていてそのまま勉強してから帰るという流れにしています。そうすると、普段なかなか来ない子も食事につられてやってきて、そのまま学習に参加できるという流れにもなっています。スタッフは市の保健師、看護師のほか、精神保健福祉士、社会福祉士に手伝ってもらっています。あと担当ケースワーカーにきてもらい、いい表情の子どもたちと触れ合ってもらっています。このほかに、子ども支援課はひとり親世帯の所管で、この世帯の子どもたちにも対象を拡大したということもあって、関わってもらっています。あとは、NPOアスポート学習支援センターです。先生たちは、元学習塾の先生や家庭教師、元教員の方がほとんどで、普段の支援ではアウトリーチをしてくれています。来なくなった子供には訪問に行ってお母さんとお話をし、家族的に色々問題のあるおうちも多いですので、家族の悩みを含めた支援もやってくださっていて、よく家族背景を知っています。
 当日スタッフとして、市の担当職員、相談員、栄養士、調理師(後で説明しますが元生活保護受給者)、実習生がいます。また実習受入れをしている福祉大の学生や、看護大の学生、薬科大学学生など、学生ならではの協力をして頂けないか、色々考えているところです。

 これだけの職種を揃えるのには意味がありまして、生活保護の子どもたちは高校を出たら働かなければならない子が非常に多いです。いろんな仕事や学校があることなど、調理をしながら話せたりもできますので、教室のはじめに「こういう職種の人たちが今日は来ているので、何か気になったら聞いてみてね」など声掛けもします。そこで、子どもたちが資格を取るような学校を目指すきっかけになるよう、密かに仕組みを作っています。あとボランティアの活用として調理師免許をもった生保受給者の方に協力を依頼しています。自立支援プログラムの中の健康管理支援プログラムを、月に一回、特定保健指導のイメージで毎月保健指導をしていたんですけれども、初めて会った頃は辛く落ち込んでいる状況でした。調理師さんの経験もあるし是非手伝ってほしいという話をしました。初めは「自信ないから嫌だ」と言ってましたが、最初は「材料を作るところだけでいいから。しゃべらなくていいから」ということでお願いし協力してもらいました。その時、デモンストレーションで細切りや千切りがあったんですけれども、子どもたちは彼の包丁さばきがすごいので、「お~~」とか、「わ~!」とか言うわけです。そうすると彼の眼が変わりました。もう本当に自信に満ち溢れて、今までずっと下を向いてぼそぼそ話していた人が声も大きくなりました。次も手伝ってくれるかな、と聞いたら「はい、喜んで」と言ってくれました。きっと彼にとってもいい経験ができたのではないかと思います。彼はその時は無職でした。自立するために正社員で働きたいという目標があったのですが、スモールステップを踏んでからということで給食調理員のアルバイトを斡旋して、そこからステップアップされています。


〈今後の展望と課題〉
 年に2回ではなかなか調理技術を引き上げるというところまでは難しいなと思っています。この教室では料理のきっかけづくり、こういうものもおうちで作れるんだということを知ってもらうような場にしていこうと思っています。後は子供たちの未来のための健康教育ということで、若年妊娠など、せっかく頑張ってきても高校中退をせざるを得ず、貧困の連鎖が防げないことが実際にあります。産む選択をしたお子さんは、それはそれで支援をしていくわけですけれども、子どもたちが色々なことを知る場にできるといいなと思っていて、健康教育、性教育については次の回で入れていきたいと思っています。


〈おわりに〉
 これは市役所だけでは成り立たない事業だと考えていて、普段からやり取りをしている団体さん、学習支援教室などと、子どもたちが集まる場を借りて一緒にやらせていただきました。市役所ができることは、予算の工面をしたり会場をとったり、細やかな準備をする他に、関係機関のボランティアさん、NPO法人さん、色々な職種や世界があると伝えること、周りには支えてくれる大人がいるよ、ということを伝えていくのも非常に大事なことだなと思っています。あとは未来ある子どもたちに何ができるか、ということは常に考えていかなくてはいけないと思っています。本事業は、今年度の厚生労働省のモデル事業として、「子どもとその養育者への健康生活支援事業」として生活保護受給世帯の子どもと親の支援としてやらせていただいているのですが、まだまだ改善の余地はあると思っているところです。



1日目グループワーク
質疑

【質問1】高浜の越林さんにお伺いします。こんな少ない保健師の人数で、どういう体制でこんな丁寧な取り組みをされたのですか。
【越林さん】少ない人数ですので、隙間時間を見つけてやっていくということ、そして2年間は準備期間をくれということで、先に上に言って、看板を上げるのは2年後にしてくれと伝え、スーパーバイザーの予算をとりました。


【質問2】「知る」という作業の中で、スーパーバイザーがいたのですか。
【越林さん】知るという作業の中で、最初はいなかったのですがカルテの分析、コード化の仕方は、大阪市立大学の横山美江先生に教えて頂きました。あとはロジックツリーやPDCAサイクルですが、私は、教えていただけそうな方に、食いついてアドバイザーになっていただいています。ロジックツリーはソーシャルマーケティングを教えてくださった保健所長さんを巻き込んで、異動されてもメールで添削していただいたり、こうして何個も何個もロジックツリーを作っていくうちに、だんだん自分たちの中でもスキルを獲得しました。そうしてそのスキルを職場に還元するという感じでやっています。


【質問3】近藤先生、データ活用の際、市町村の規模によって使い方ややり方などに差があったのですか
【近藤】今日持ってきた冊子にも書いていますが、政令市など大きな自治体は、都道府県と同じ役割を担っています。ある政令市では、データを使ったことで「縦の連携が取れるようになった」と言っていました。本庁と、行政区と地域包括支援センターという連携です。昔は「本庁がやってきた」というとまた仕事が降ってくると警戒されていたようですが、データを使ったワークショップを行政区と一緒にやって、各区の課題をみんなで考えました。その結果、地域づくり型の介護予防プログラムのモデル地区が選ばれ、本庁と連携しながら実際に活動を進めていったということです。データが起点となって、連携が深まり行政区との関係が良くなっていったということです。一方、小さい自治体では縦の連携はほぼできていることが多いようです。そこで、むしろ各課の横の連携をするとか、住民との協働をする時に根拠としてデータを使う場合が多いようです。もちろん大きな市でも、地域包括支援センターが住民と交流する時にそういったデータを使うことも可能です。


【質問4】藤田さんにお伺いします。このような活動ができるようになったのは24年度に福祉に保健師が配置されて、その後藤田さんが引き継いで今のような活動をされているとのことですが、果たしてほかの保健師が配置されていたとしてもできるものでしょうか。それと藤田保健師さんがこのように大勢の人たちの力を得られるように築かれたのは、最初からどのようなことを築いていったのか。実際に一緒に働いているケースワーカーの方たちがこの活動をどのように評価されているのかについてお伺いしたいです。
【藤田】やはり前任保健師が基盤を作ってくれていたところに入ったので、後は広げていくだけで、やりやすかったということがあります。正直、経験が少ない若い保健師だとちょっと難しかったのではないかなと思います。今私と、産休あけて戻ってきた保健師の2人でやっていますが、その保健師は生保しか経験がなく地域の活動を知らないので、母子の訪問など地域の保健師の活動がみえるものも一緒に行ってもらっているところです。もともと保健センターや障害福祉の機関など、一緒に動いてきたところには協力をしてもらうし、私も協力するようには心がけていて、困った時に「助けて」って言える関係は非常に大事だなと思っています。そして「助けて」だけじゃなく、「こういうことやりたいんだけど、何か知恵はないかな」とか、「お金(予算)がないんだけどな」なんて言う話もできる関係にしながらやっていたと思います。
実際、予算取りに関しては、うちの部長がすごく長けていて、もともとケースワーカーを経験している福祉畑の職員でしたので、関係機関をよく知っていたし、お金(予算)ないなら歳末助け合い基金とかもあるんじゃない?とか、いろんな知恵を授けてくれます。鉛筆舐めて書類を作って予算を取ったり、そんなこともしていますので、いろんなやり方があるよ、予算がない=できないという風にはしたくないと思っていて、それは保健センターの保健師にも伝えたいなと思うことです。


 あと、福祉のケースワーカーですが、若手の職員が多く私の年齢がある程度上なので、「藤田さんの言うこと聞かないと怒られる」という風に思っているので(笑)、お願いは割と皆さん聞いてくれています。ただ精神の未受診で、どうにもこうにもならないケースなどが、生保だとたくさんいます。障害認定に関する仕事をやっていた経験から、「こういう風にしたらいい」とか「まずこういう病院に相談したらいい」という助言は必ずするようにしています。新人のケースワーカーはまず何をどうしていいのかわからなくて困っているので、そういう時はもちろん一緒に動いて受診同行や連携の仕方など、そこまで教える。恩を売ってあるので、いざお願いするときには聞いてくれます。(笑)
実際の集客ですが、大人の調理実習はあまり来ないんです。「料理はやりたくない」という男性陣は多いので、この人料理できるようになったらいいなと思う人をピックアップして教室につないでねと、お願いもしています。そもそもケースワーカーというのは事務職ですので、始めは保健師が何をしている人かもわからないのです。4月に新しいケースワーカーが異動してきましたら、15分くらい時間をもらって、「私がやっている仕事はこういうことよ」という話をさせてもらっています。健康管理のこと、ジェネリックのこと、調理実習のこと、そして、こういう人たちは私のお客さんだから紹介してつないでね、というようにアピールをします。そうすると「藤田さん、こういうケースがいるんですけど、どうしたらいいですか」って言ってくれるので、向こうとしても役に立っているし、私もお願いがしやすいという感じです。


【質問5】ハイリスクのケース対応に追われている所で、どうやったらハイリスクとポピュレーションの両輪がいけるか、どんな切り口があるかについて3人の先生方に伺えたらと思います。
【越林】人数が少ないからこそハイリスクばかりやっていたら次々と把握されてくるケースに追われてしまいます。川の上流と下流の話を聞いたときに、「それだ!」って思いました。例えば特定保健指導にしても、指導しても、生活している場所が健康にとってあまりいい習慣がなければ健康づくりを実践することは困難だし、生活環境を保健師がすべて改善するというのは絶対に無理なのでポピュレーションアプローチで、よりいい環境を作っていくことを進めています。実際には、スーパーとか会社とかいろんなところを巻き込んでいるんですけど、「健康」ってある意味商店にとっても企業にもいいキーワードでもあります。たとえばスーパーで健康にいいことをやっていますとか、職員に対してもやっていますとかいうことはとてもいいことなので、そこに対して、健康づくりに必要な情報やツールを提供するという形で協力させて頂いたりしています。ポピュレーションアプローチをしないと逆に業務が回らないと感じています。
【藤田】ハイリスクはやはりケースワーカーが一番自分のケースを知っていますので、つないでいただいてハイリスクをキャッチする流れを作っています。ポピュレーションアプローチは、全世帯に保護費が変更されるタイミングが毎年3回あるので、その時に通知を出しますので、その中に「健やか通信」というお手紙を書いて入れています。冬でしたら感染症予防の手洗いうがいをとか、インフルエンザの予防接種とか、そういうことをやったり、健診の案内がはいったお手紙をいれたりしています。 【近藤】越林さんと藤田さんのお話をきいていて、たとえば藤田さんがおっしゃった生活保護受給者への健康管理支援の場合、健康管理支援のシステムを改善すること自体がポピュレーションアプローチになりますね。仕組みを作ることは環境づくりと言えるからです。ケアを可能にするための組織同士の連携をつくるということもポピュレーションアプローチでしょう。まさに今伺って、ソーシャルキャピタルだなと思いました。お互いさまという関係性を作るということ、そういう関係性ができていれば多少面倒なことにも「しょうがないな」といいながらやってくれます。その「お互いさま」が生まれるというのが、町づくりのポピュレーションアプローチなんだと思います。

グループワークの情報交換
テーマ:地域づくりにおける多職種連携の中で、保健師だからできること


《A》地域を作っていく中では職種による違いはないのではないかと、それぞれの立場の強みがあるし、という中で、保健師は地域の健康の度合いを見極めてどこから入っていくか、優先順位を決めていけるのが保健師らしいところかなというのが出ました。学校や企業の中で働くときにどこから入っていっていいかわからないとか、誰とつながっていっていいのかわからないといった悩みがある、という話もあり、結論は出ぬままでした。


《B》話題提供や講演を聞く中で、地域の中で保健師の果たす役割というのは確認できたところがありましたが、なかなか現場に流されておぼれる感じが多くて、でも市町村が実態を把握する中で、事業化するには、県の保健所さんたちとの連携が必要ですよね、というところで一緒になってやるというのを確認できました。

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