第74回日本公衆衛生学会 自由集会の報告
日 時:平成27年11月5日(木) 午後7時から9時
会 場:長崎市「えきまえ」いきいき広場11号室
テーマ:保健所と市町村と大学との協働による地区診断
今回は長崎県が平成26年4月から取り組んでいる「県立保健所における市町支援計画」の一環で、五島保健所と五島市が共同で実施した地域診断に大学も参加した活動の報告です。
県立保健所による市町支援計画とは、県が地域保健活動を積極的に実施するために策定された「長崎県地域保健に関する基本指針」に関連する事業で、県保健福祉部長より県下各市町保健衛生所管部長宛てに出された文書では、「地域保健対策への地域住民のニーズの把握に努め、専門的な立場から企画、調整、指導およびこれらに必要な事業を行い、市町への積極的支援に努めることで健康なまちづくりの推進を図る」と、その目的が記されています。
もちろん、市町にとっては突然の呼びかけ。当初は五島市でも「保健所は市に何の支援ができるのか」「保健所のための事業ではない」というご批判を受けたようです。しかし、保健所担当者の粘り強い市関係3課(保健部門・福祉部門・高齢部門)への訪問と説明で、26年7月には五島市と五島保健所が3つの目的を設定し、テーマの選定を行い、地域診断を実施する運びとなりました。
今回の報告では、五島保健所の木口富士枝保健師の報告を中心に、受け手であった五島市の大坪京子保健師、地域診断の会議にちょっとだけ参加した県立大学の久佐賀の報告を中心に、連携・協働のあり方も含めてご報告しました。
【木口保健所保健師の報告のポイント】
・五島市の3課(保健部門・福祉部門・高齢部門)それぞれの今の課題を聞き取る中で、共通の協働計画のテーマとして「認知症対策」に絞り込んでいったこと
・乗り気でない市を相手に、合意形成の会議のメンバーや会議の回数などを配慮し、会議を構造化し、その中に県の応援や大学をうまく取り入れたこと
・市の保健師に、数字ではなく困っている事例から語ってもらうようにしたこと
・地域診断シートに、量的データと共に質的データ(つぶやき)欄を設け、日頃、市の保健師がつかんでいる実態を見える化したこと
・市と保健所が実態を共有し、市の課題を明確化した後、皆で合意できる目標を設定し計画立案へと導いたこと(地域診断から見えてきた課題、協働計画)
・結果、市の3課と保健所のいづれもがWIN WINの関係の協働計画になり、各課が抱えていた課題を改善する事業へのつながったこと
【大坪市保健師の報告のポイント】
・保健所からの協働計画策定の打診があった時の率直な反応
・それをきっかけに、市の保健師間でも自分たちの日頃の活動を見直し、大学や県を活用した研修会の開催や、支所や市本庁の保健師たちがワーキンググループを作り指針の読み合わせを行うなど、協働計画(地域診断)の関係者だけでなく、保健師全体の質の向上に結び付けたこと。
【県立大学久佐賀の報告のポイント】
・参加したのは一回の会議と研修会でしたが、語られた内容を県・市・病院施設・個人・家族・近隣の枠組みを使い整理し、関係者の役割を明確化したこと。
■アンケート結果
活動報告はいかがでしたか。(一部抜粋)
・連携にいたる様子がよくわかりました。連携のコツもつかめたような気がします。心の動きまでわかり、それぞれの機関の思いの相乗効果がすばらしいと思いました。
・大変参考になりました。市としては、うらやましい取り組みに思いましたが、今後、持ち帰り、できる事を少しずつ実践していきたいと思います。保健所と市町村の関係がこのような形に全国的になればいいなと痛感します。
・実際の協働についてとてもわかりやすかったです。それぞれの立場のホンネを聞けたのがよかったですし、それを表現できる関係性であることが、うらやましく、すばらしいなと感じました。
グループワークはいかがでしたか。(一部抜粋)
・裏話や苦労話がたくさん聞けて楽しかったです。大変だけれど、自分ができるところからがんばろうと力をもらえました。
・現場の話が聞けてとても参考になりました。 中堅保健師のやる気をいかに引き出すか、県のしくみをいかに効果的に作るか、県や市町毎の努力を感じました。
・他市のことがわかりよかったです。普段は、近隣市のことばかりしか情報源がありませんでしたが、県レベルで他市のことがわかって有意義なグループワークでした。